FUTURE〜文筆家・勝沼紳一と企画者草川一が当て所なく繰り広げる四方山話〜

次の世代に伝承されていない日本文化 その壱             2007年4月24日

前回のジェイムス・ディーン話が、意外と評判だったらしいんので(笑)、懲りずに、というわけじゃないんだけど・・・・・・。この前、神楽坂の酒場で、こんなことがあったんだと。
神楽坂? あそこを舞台にした、倉本聡のドラマが3月に終わったな。
嵐の二宮君主演の「拝啓、父上様」ね。
俺なんかの世代は、さすが倉本節と思われる台詞やシチュエーションが随所に見られ、興味深かったけどね。視聴率は伸びずじまいだったろ?
いつの頃からか、視聴率なんて物差しは、(そいつのウチが)たんに暇潰しにTVをつけっ放しにしている、という事実を指し示すだけの、内容とは無縁、どうでもイイ数字になり下がっていやがるのに、気付かないふりしてるのは、広告代理店とTV関係者だけだろ?
CMスポンサー筋の商品が、売れさえすりゃ、その番組の目的は果たせると(笑)。
内容は二の次ね。ま、その話はちょっと置いといて……。神楽坂でね、甲も良く知ってる、音楽プロデューサーのYね、あいつが某地方キーTV局勤務の、制作局の偉い人&若いスタッフ連中と一緒に呑んでたんだって。Yは、まぁ、俺たちと一緒で日芸の演劇学科の出身だから、ってこともないだろうれど、仕事柄、TVドラマや映画のテーマ曲や挿入歌をチェックする意味で、よく観てるんだよ。でね、話題が神楽坂絡みで「拝啓、父上様」のネタに入ったので、Yは、べつに気をてらったわけもなく、ごく自然の話の運びで「前略おふくろ様」のことに触れたんだと。
そりゃ当然ね。「拝啓、父上様」自体が、30数年前の自作のアレの、パロディというか、続編的要素が強いわけだからね。八千草薫や梅宮辰夫の役柄が、前作を引きずってるように描かれてること自体に、意味があるんだし。
だろ? 言わずもがなだろ、俺たちの世代なら。ところがYが、「たしか『前略おふくろ様』の頃は、俺、中学生だったかな?」と口走ったら、若いTVマンが数人、声を揃えて「Yさん、うまいこと洒落ましたね。へぇー、「拝啓、父上様」だから「前略」か。あはははは、こりゃ一本取られた」って。
はい? え? それって、・・・・・・まさか?
その、まさか。こいつら、知らないのよ、「前略おふくろ様」を。倉本聡が30数年前、ショーケン(萩原健一)主演でそういうヒットドラマを書いたことを。勝手にYが機転をきかせ、酒場ジョークで、そういうタイトルを思いついたと勘違いしてやがる。
あらららら、いやぁ、それにしても、随分とレベルの低いTVマンだな、そいつら。
そう思うだろ? 知らないにもほどがあるでしょ。いくら世代が違うったって、かりにもTV局入って、制作を志していやがる野郎どもが、作品の評価の是非はともかく、わが国を代表する脚本家の重鎮の、代表作を知らないという・・・・・・。
こりゃ、大学生が「ローマの休日」を知らなくても当然か(笑)?
こんなこと愚痴るとジジ臭いけど、俺が日芸の学生の頃、口酸っぱく当時の教授連にどやされたことは、もしかりに将来、てめぇが何かしらクリエイティブな職業のドン尻に「くっつきたい」なら、下手糞な自主映画作ったり同人誌に小説発表したりするのもいいが、とにかく「映画なら映画、TVドラマならドラマ、小説なら小説、お前らが生まれる前に、すでに凄い仕事を成し遂げてる大先輩方の、膨大な作品群を観まくれ!! 読みまくれ!!」だったからね。将来、TV制作に関わりたいやつなら、倉本聡と山田太一の創作方法の違いぐらい、当然、てめぇでシコシコ研究したもんだけどね。
僕はヨーロッパの映画から随分と学ばせてもらったよ。様式美とか、物語の構成とか。
俺は当時、官能小説の研究もしてたから(笑)、当時の大家の作品は、ほとんど文体模写したよ。川上宗薫、阿部牧郎、富島健夫、とくに尊敬してたのは梶山季之ね。高校時代に「ミスターエロチスト」っていう、変態男の哀感を描いた作品にハマってね。これはね、フェティシズムとは何かを学ぶには最高の教科書だよ。文庫本の解説が野坂昭如で、これがまたグーでね。
そういうベースがあって、後年、自分でも官能小説を書き始めるわけ?
それは、偶然だね。当時、まだ中間小説誌(純文学と大衆文芸の中間的味わいの作品)って存在が「現役」の頃で、たまたま、その中でも官能系小説に強い文芸誌の編集長と出会い、「書いてみる?」ってことに。ま、その話はまた別の機会に……。「前略おふくろ様」を知らない輩が、TVの制作に携わって平気でいるって事実ね。でもさ、今や世の中全般、そういう傾向じゃん? この前、携帯ショップで店員に呼び止められたので、良い機会だから、ちょっと新機種の使い方で不明な点をその場で聞いたわけよ。若いネェチャンに。そしたら途端に困った顔して、しどろもどろで棚のパンフを見だしたから、「わかった、もういいよ」って笑顔で言ってその場を立ち去ったよ。ひと昔前ならどやしつけてるね。「てめぇ、パン屋でバイトしてる時に、客に『餡パンってどれ?』って聞かれて、『知りません』って答えやがるのか、馬鹿野郎!!」ってさ。
その喩え自体、「意味わかんねぇ」とか言われて、かえって罵倒にされるよ(笑)。
本屋の店員に「井伏鱒二の本は?」と聞いたら、「ジャンルは何になります?」って真面目な顔で問い返された先輩がいるからね。それも店長クラスの野郎によ。その先輩、わざと意地悪で「ジャンルでいえば、水中系かね? フリークス系かもしれない」と言ったとか言わないとか。
それって、もしかしなくても「山椒魚」というオチ? ふうむ、これまた絶対に「意味わかんねぇ」だろうな(笑)。ずが、結果、反吐が出るほど「つまんねぇ!!」なんて現実、ゴロゴロしてるし(笑)。