劇評306 

息つく暇もなくステージに釘付けになる強烈な磁力を放ち白眉。

 
 
ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」

2016年7月16日(土)
曇り シアタークリエ 18時開演

脚本:マーシャル・ブリックマン、リック・エリス
音楽:ボブ:ゴーディオ
詞:ボブ・クルー
翻訳:小田島恒志
訳詞:高橋亜子
演出:藤田俊太郎
音楽監督:島健

出演:中川晃教、中河内雅貴、海宝直人、福井晶一、太田基裕、戸井勝海、
阿部裕、綿引さやか、小此木まり、まりゑ、遠藤瑠美子、大音智海、白石拓也、
山野靖博、石川新太
 

 

場 : 劇場内に入ると既に設えられているセットが見えています。ステージ上下にナムジュン・パイクのオブジェ風に積まれたモニターには、様々な角度から撮られた観客席が映し出されています。手を振って自分の姿が映し出されているのか確認している観客もいます。

人 : 満員御礼。リピーター風の女性客比率が高い気がします。男性客はパートナーに連れられて来場した方が多い感じですね。何だかステージが始まる前から、観客席は熱気を帯びていますね。

 本作は、フォー・シーズンズのヴォーカルであるフランキー・ヴァリを演じる中川晃教の他の3人のメンバーはダブル・キャストとなる。TEAM REDとTEAM WHITEという呼称でチーム分けが成されている。観劇した回は、TEAM WHITEの公演となる。

 アメリカ版の公演は未見であるが、クリント・イーストウッド監督の映画版は鑑賞済みであった。仲間同士の絆の強靭さが胸を打つ、捻じれたサクセスストーリー・ミュージカルの傑作であった。日本公演版で注目したいのは、演出を担う藤田俊太郎の手腕である。蜷川幸雄の下で培った演出術をどのように展開していくのか、才能は果たして受け継がれていくものなのかという点に注視していくことになる。

 中川晃教は「モーツァルト」で初見しその才能に驚嘆させられたが、以降、表現力に更に磨きかけ、現在では日本のミュージカル界に無くてはならない存在となっていると思う。そんなミュージカル界に於いても、この高音域を操るフランキー・ヴァリを演じられるのは、中川晃教しかいないのではないかと感じ入る。このフォー・シーズンズの歌を歌える人が、日本に存在していたのですね。その声色に惹き付けられ、心身ともに絆され、癒されていくようだ。

 もちろん、TEAM WHITEの面々も素晴らしい。中河内雅貴はグループのリーダー、トミー・デヴィ−トを演じるが、勝手気ままな傍若無人振りが嫌味なく造形され、フォー・シーズンズを愛してやまない愛すべき困った人を的確に捉え見事である。

 後に参加するボブ・コーディオは海宝直人に委ねられ、グループから少し引いたスタンスを取りながら、歌曲のクオリティを上げていく才人振りを、ピュアさを維持しながら爽やかに演じていく。

 グループの年長者である初期メンバー、ニック・マッシをベテラン福井晶一が演じていく。ずっとグループを下支えする存在であったが、そんな自分の在り方をある契機に方向転換するその暴発を、違和感なく繊細に紡いでいくことで、役柄に説得力を与えている。

 強烈な個性とスキルを併せ持つ俳優陣の存在感が、圧倒的なインパクトを放出していく。やはりミュージカルの醍醐味はスターのキラキラとしたオーラの洗礼を浴びることなのかもしれない。そういう意味で本作は、作品の魅力が俳優陣によって完璧に開花した幸福感に満ち満ちている。

 一流の素材を料理するのは、藤田俊太郎。まずは、出演者の魅力と資質を全開に引き出すことが出来たのは最大の功績であると思う。メインの4人の誰もが変に突出することなく、アンサンブルを遵守したグルーブ感のバランスがとても心地良い。勿論、俳優陣が、他者との距離感をきちんと図れるクレバーさを有しているに相違ないとは思うが。

 また、どの場面においても、脇や後方で彼らを見つめる人々がきっちりと描かれ、背景としての役割ではなく、人間として生きている姿を活写していく。様々な視点が交差しながら、クッキリと人物の想いが浮き彫りになっていく様はとても良い。

 ステージの背景は、ステージ衣装が掛けられた楽屋風な設えであるが、特にそこで俳優陣が着替えたり、談笑したりする光景が描かれたりはしないが、ステージものの雰囲気造りには大いに貢献している。上下にアットランダム風に積まれたモニターは、シーンの合間に効果的に活かされている。また、かつてのハリウッド映画のような、車に乗った背景のスクリーンに景色が流れるシーンなども挟み込まれ往年の時代性を醸し出す。センターに据えられ上部の楽屋装置にまで伸びた長大な階段は、劇場空間の突端までをも活かしきる。

 スピーディーに展開する物語を的確に、シーンごとにくっきりとした印象を刻印する演出はキレが良く、フレッシュな瑞々しさに満ちている。どの場面にも満身創痍の全力投球で臨むアプローチに手慣れた感がゼロで新鮮だ。

 息つく暇もなくステージに釘付けになる強烈な磁力を放ち白眉である。本作に携わった方々の更なる飛躍を大いに期待したい。再演も楽しみである。


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