劇評322 

歌舞伎をエンタテイメントとして見事に昇華した娯楽作として秀逸。

 
 
六本木歌舞伎 第二弾「座頭市」

2017年2月4日(土) 晴れ
EX シアター六本木 18時開演

脚本:リリー・フランキー 演出:三池崇史

出演:市川海老蔵、寺島しのぶ、
市川左團次、市川九團次、大谷廣松、
片岡市蔵、市川右之助、他


場 : EXシアター六本木は、ライブのプログラムが多く組まれているシアターのようですね。六本木歌舞伎第一弾も同シアターでの上演でした。1階席は地下2階に降りる構造になっています。本演目故か、劇場前方の上下のドアがクローズされているので、終演後、最後方のドアしか開放されていないため、出るのに時間が掛かります。また、劇場内に、上演時間表示がありません。

人 : 満席です。お客さんは皆さん、綺麗な装いで来場されています。劇場内へと向かう勸玄くんをTVカメラが密着しています。ロビーには、三池監督やリリーさんの他、しのぶさんの夫君の姿も見受けられました。

 歌舞伎と銘打たれた公演に、寺島しのぶが登壇するのは何とも感慨深い。こういった新しい地平を斬り拓く演目を、歌舞伎にはどんどんと量産してもらいたいものだと感じ入る。市川海老蔵が主宰するこの六本木歌舞伎は、第一弾の宮藤官九郎脚本の「地球投五郎宇宙荒事」に引き続き、リリー・フランキーが脚本を担当する「座頭市」と魅力的なプログラムが上演されることとなった。

 この演目において盲目の座頭市を演じるのは、当然、市川海老蔵である。あのギョロリとした市川海老蔵の眼孔を封印するというコンセプトが、まずは、面白い。また、寺島しのぶが花魁を演じるのは予定調和であるが、村娘役も担うという設定も何とも楽しい。主演二人のこの役柄が設定された時点で、作品成功の成否が決定したと言えるのではないだろうか。こんな二人、絶対観てみたいですよね。そして、そんな思いを抱く観客の欲望を十分満足させる出来栄えとなったと思う。

 リリー・フランキーは、座頭市を中心に据え、夾雑物を極力排除した実にシンプルでコンセプチュアルな脚本を創造した。歌舞伎でいうと荒事になるであろうか。市川家のお家芸を踏まえたこの配慮ある心憎さが堪らない。

 演出は「地球投五郎宇宙荒事」に引き続き、映画監督の三池崇史が登板した。役者の魅力の引き出し方はお手の物であるが、六本木温泉宿場町という架空の町を活気ある花街として蘇らせる手腕も見事である。藤間勘十郎が監修・振付を担っているので百人力な布陣であろう。

 期待通り、市川海老蔵の魅力が全開で惹起する。鋭い眼光を封印しているため、その封印が解かれるのはいつなのかと焦らされるのも、また、楽し。座頭市であるので、派手な殺陣なども大いに期待するが、多勢を相手にした大立ち回りで観る者を大いに満足させてくれる。

 更には恋の鞘当ても盛り込まれていく。そのお相手は、2役を演じ分ける寺島しのぶである。座頭市の斬った張ったのパワーにあてられたのか、猛アタックで座頭市にアプローチを仕掛けていく花魁・薄霧太夫という女性像が造形されるのが、現代的で面白い。剣には強い座頭市も、薄霧太夫には滅法弱くタジタジになるという人間的側面も描かれ、重層的に人間像が構築されている。

 素朴な魅力に座頭市が絆されていく、この地に流れ着いた女中見習いの盲目の少女おすずも、寺島しのぶが演じていく。素朴な魅力に座頭市は絆されることになるが、住む世界の異なる2人の女性を、クルクルと早変わりで演じる歌舞伎の醍醐味をたっぷりと堪能させてくれる。

 街を牛耳る権三が開く賭博でいかさまを見抜いた座頭市がもめた場を収める風賀清史郎を市川右團次が演じていく。市川右團次の存在感が作品を脇からキリリと締め上げ、安定感を付与していく。権蔵を演じる片岡市蔵の荒くれ具合は、溌剌とした意気を発しパワフルにエンタテイメントを志向し楽しい。

 歌舞伎をエンタテイメントとして見事に昇華した娯楽作として秀逸だ。歌舞伎の入門編としても楽しめ、観客の裾野を広げる役割を十分果たすことが出来たのではないだろうか。第三弾も期待したいところだ。


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