劇評10 


混沌の2003年を問う軽やかな疾走感溢れるエンターテイメント

「飛龍伝」


2003年11月30日(日)曇り
青山劇場 13時30分開演
作・演出:つかこうへい 
出演:広末涼子、筧利夫、春田純一

場 : 客入れの時、普通の緞帳が降りていた。
舞台は後方に横幅一杯の数段の階段がある以外は、イントレがあるくらいの
ほとんど素舞台。
人 : 満席。まんべんなくいろいろな層の方々が集まっている。
但し、年配の方々の姿は見かけなかった。

 何よりも、広末涼子の存在がこの作品内容を決定付ける最大の要因となっている。全ての者を魅き付けその欲望を跳ね返す広末のパワーが、この2003年の飛龍伝のコンセプトだ。


 広末涼子は凛としてストーリーの渦に巻き込まれることはないが、全共闘30万人を率いる委員長として存在するという独特の存在感で、他の役者を圧倒する。


 相手役はベテラン筧利夫。膨大な台詞を舌で回すように滔々と繰り返し続けるそのパワーとパッションが、透明なオーラを放つ広末との丁々発止で絶妙のバランスを発する。在り方の違う役者同士ではあるが、他者の助けを必要としないふたりのバトルゆえ、その攻防はスリリングに展開する。

 ステージはこれでもかといわんばかりのサービス精神で飽きることがない。下品なモチーフもさらりとやり過ごし、強烈な熱愛は堂々と謳いあげ、また、全共闘の男たちの熱い思いをそこかしこに噴出させ、終始、ステージはお祭り騒ぎだ。唐突にマイクを持ち広末が歌うとバックでは男たちが群舞で踊り、乱闘シーンはJACばりのアクロバットでアッと言わせ、スモークは出てくるわ、紙吹雪は散るわで、演劇という枠など超えたひとつのショーとして成立している。


 但し、日本から発する日米関係の見直し・世界との対峙という内容にリアルタイムの旬を感じ、この2003年に安保闘争をモチーフとした作品を上演するという符号と共に、つか作品の持つ深さと広さに改めて気付かされることとなった。エンターテイメントに徹しながらも、濃厚なメッセージを発しているが、スター広末涼子によって暗さや重さから解放され、自由に視界のきく地点に立脚するという一種の普遍性を獲得している。


 表面的な軽さをよそに、根本では強烈なメッセージを発したいという欲望は、ちょうど現代の人々との意識とシンクロしているかもしれない。時代を読み込み、その意識を敏感に反映させてきたつかこうへいの次なる展開が気になるところだ。