「あっこのはなし」は、マームとジプシーの10th ANNIVERSARY
Tourの4演目の内の1プログラムで、この期間中の公演回数はたったの2回。「ハロースクール、バイバイ」もオーディションでキャスティングされた高校生たちによって、装いも新たにほぼ同時期に上演された。
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5本の作品が同時に動いていたことになるが、一体どのように上演の準備をしていたのか、まずは、そんなことが気になってしまうのは、私だけであろうか。藤田貴大の多作振りには、大いに目を見張るものがある。実にパワフルである。
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「あっこのはなし」は初見であるが、今まで抱いていた藤田貴大作品のイメージと印象
を異にする。過去の甘酸っぱい想いや辛苦を、主に女子学生にフォーカスを当てて描くのが氏の特質だと感じていたのだが、本作は違っていた。
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ルームシェアをする、多分アラサーだと思われる女性3人と、彼女たちを取り巻く男性陣との恋の鞘当てが展開していくのだが、それが何ともリアルなのだ。皆がそれぞれに思う本音がストレートに語られていくのだ。へぇー、藤田貴大にはこういう抽斗もあるのだなと、新鮮な驚きを与えてくれる。
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しかし、面白可笑しく物語が筆致されていくだけではない。他人に対して思う明け透けな思いが、嫌味なくストレートに描かれているのが何だか心地良くも感じていく。等身大の藤田貴大自身の資質が現れているのであろうか。ギミックに転じない物語の紡ぎ方が、現代の若者の真意を端的に表出させ、今という時代の空気感を見事に可視化させていく。
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「ハロースクール、バイバイ」の出演者たちは、全員オーディションで選ばれた学生たちだ。12人の出演者は、女性10人、男性2人という構成比。女子バレーボール部の活動が、物語の中心となっている。
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藤田貴大は物語を回転させながら、出演者個々人にスポットライトを当て、虚実の被膜の境を曖昧にさせていく。名前も本名でやり取りされていく。出演者の名前がステージ後方上部に投影され、一人一人にフォーカスを当てていく演出も面白い。そこが、本作の肝である。演劇と個人史とをクロスオーバーさせて描くことで、ドキュメンタリー的なアクセントが作品に付与されるのだ。
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この戦略的な観客の巻き込み方は見事である。観客は、出演する学生たちを、まるで身内の様な目で見守ってしまうことになるのだ。出演者のスキルの持ち駒の少なさを、観客の共感で補っていく。
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バレーボールの試合が度々挟み込まれるのだが、その瞬間瞬間でコートの前後左右の方向が変わることで作品にダイナミックさが付け加えられていく。藤田貴大の真骨頂、リフレインの表現も健在だ。観客を飽きさせない方策が果断なく連打されていく。
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藤田貴大の2作品を鑑賞することで、氏が持つポテンシャルの高さと共に、実は観客を満足させようと奮闘する思いの強さも実感させられることになった。次回はどんな才能を発揮してくれるのか、楽しみでならない。
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