劇評374 

藤田貴大が新たな可能性を広げた男優中心の作品は現代への警鐘。

 
 
「CITY」

2019年5月26日(日)晴れ
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
14時開演

作・演出:藤田貴大
衣装:森永邦彦(ANREALAGE)

出演:柳楽優弥、井之脇海、宮沢氷魚、
青柳いづみ、菊池明明、佐々木美奈、
石井亮介、尾野島慎太朗、辻本達也、
中島広隆、波佐谷聡、船津健太、
山本直寛、内田健司、續木淳平

場 : 劇場内に入るとステージ上には、白い板で構成された箱らしきものが上下イッパイに広がっています。緩やかに音楽が流れています。

人 : 1階席は満席ですね。お客さんはお若い女性客比率が高いですね。柳楽優弥を始めとする旬の若手男優のファンの方々なのでしょうか。

 藤田貴大作品は、女優をフューチャーした作品が多かったが、本作では男優がメインであり、これまでの作品とはまた違った印象が新鮮だ。感情を繊細に紡ぎ重ね合わせていくタッチはそのままに、マウンティングする男たちのエッジの効いたダイナミックさが加わりヒリヒリとした感覚が醸成される。

 男たちの言動に起因するのは、彼らが内に抱えているそれぞれの背景だ。どのような環境でどのような思いを抱いて育ってきたかというパーソナルな領域が、今の生き様に大きな影を落としていく。

 男たちは他人と自分とが対峙した時、自分の立ち位置を気にしてしまう。そして、相手を凌駕したいという思いに駆られていく。そのためにバトルする。男の直情的な側面を藤田貴大は真正面から捉え筆致していく。

 登場する男たちは20歳代が中心だ。所謂、若者というジャンルで括られる世代かもしれないが、その若者たちに内在する葛藤や逡巡する思いも暴発する。社会の中に仕掛けられた構造の中でしか生きられない男たちの鬱屈とした気持ちも活写される。

 物語は、所謂、表の世界とアンダーグラウンドの世界の境界線に掛かった綱を伝っていくが如く展開していく。危ういボーダーを行き来する男たちにとってバイオレンスは付き物だ。疑闘師を招いての殺陣もリアルで、藤田貴大のこれまで観たことのないポテンシャルを感じることになる。

 地明かりの際には白いコスチュームに見えるが、明かりが消えると布地に描かれた蛍光色の模様が浮き出る、森永邦彦率いるANREALAGEの衣装も光と影に彩られた物語と上手く呼応し、視覚的にも面白い効果を発していく。

 白い箱や板を組み合わせ、積み上げて、シーンを創っていくの美術は、従来の藤田貴大演出であるが、毎回、この転換数の多さには驚かせられることなる。しかし、目くるめくようなスピーディーさでシーンが転換されていくため、観ていて非常に刺激的だ。

 役者もイキの良い若者が集うことになった。物語の中心に立つ柳楽優弥の存在感が揺るがないため、物語のどっしりとした安定感が生まれていく。宮沢氷魚の繊細さ、井之脇海の軽妙さの他、内田健司が抱え持つマグマのような熱情が作品に命を吹き込んでいく。

 藤田貴大が新たな可能性を広げた男優中心の作品は現代への警鐘でもあった。既存の社会規範の中で喘いで生きる以外の選択肢はあるのであろうか。胸にズシリと重りを植え付けられたような強烈なインパクトがあった。藤田貴大これから生み出していくであろう作品にも大いに期待したい。


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