劇評3 

文化が国を越える瞬間
「野田版鼠小僧」


2003年8月18日(月)曇り
歌舞伎座 18時30分開演
作・演出:野田秀樹 
美術:堀尾幸男 衣装:ひびのこづえ
場 : 天下の歌舞伎座。季節柄、風鈴とか、もなかアイスとか、
の出店もあり風流だ。
人 : 年配の女性が7割方を占めるのでは。一人で来ている方も意外に多い。
休憩中はほとんどの人が、弁当を食べていた。やはり、歌舞伎に弁当は
つきものか。
 歌舞伎に精通された方は別だと思いますが、私などは台詞の言葉が分からないことが多い。イヤホンガイドに頼るのが常である。しかしこの演目は、野田秀樹の著作であり、そういう危惧は全く払拭されていて心地良い。このことだけでも、舞台上との親近感が増すというものだ。


 歌舞伎座で、歌舞伎という枠=システムを踏襲しながらの新作などは、どんどんやって欲しいと思う。猿之助がスーパー歌舞伎ということで、趣向の凝らした新発想の舞台を創造されているが、スーパーと命名されているだけあって、歌舞伎の世界を越え歌舞伎ではないのは事実だ。


 勘九郎は、歌舞伎の世界にこだわり、歌舞伎座に現代の戯作者野田秀樹を引き込んで、まさに誰をも楽しませる新作歌舞伎を作り上げた。笑いが絶えない客席を見れば、この企画は2年前と同様、成功を勝ち得たといえる。成功とは、お客さんがいかに楽しんだかということである。


 野田台本はタブーを逆手に取り笑いに転じさせ、下世話な会話で場を盛り上げ、但し、情にほだされる主人公をもってホロリとさせる終幕で客の涙を絞り取る。また、回り舞台を駆使し江戸の屋根を闊歩する鼠小僧の跳梁跋扈が躍動感を生む演出も、NODA MAPなどでも見られないダイナミックな趣向である。


 勘九郎は、言葉を手に取りもてあそびながら溌剌と客にもてあそばれる風で、舞台上との距離を全く感じさせない。三津五郎の大岡忠相も威風堂々にしてコミカルが絶妙である。


 終幕、勘九郎演じる三太(サンタ)のおじさんが、師走12月24日夜に雪の中で行き倒れる中、笛の奏でる「ホワイト・クリスマス」が流れ観客が涙した時、文化が国を凌駕した瞬間を見た気がした。さて、一体次はどんなものを見せてくれるのか。