劇評2 

スピーディーな転換と強固なアンサンブルで魅せる傑作ミュージカル
「レ・ミゼラブル」


2003年8月16日(土) 小雨
帝国劇場 12時開演
オリジナル脚本・作詞 アラン・ブーブリル
作曲 クロード=ミッシェル・シェーンベルク
作詞 ハーバート・クレッツマー
演出 潤色 ジョン・ケアード トレバー・ナン
場 : 天下の帝国劇場。静かな芝居だとたまに地下鉄の音が気になるが、
今回はずっと音楽が続くので大丈夫。
人 : まあ、あらゆる人々が集う。
女性のみならず年配の男性や演劇関係者っぽい男性の集団など多様。
ちなみに私の席周辺は、この回のコゼット役の知り合いの方が何名かいた。
 無駄を省いてより新鮮に若返えり(役者の変な溜めの演技等が一切ない)、全体的にだいぶスピーディーな展開になった。息つかせぬ展開でグイグイ観客を引き込んでいく。

 この回のジャン・バルジャンは別所哲也。初出だが安定した演技で見せる。繊細な感情表現が上手い。歌い上げながら常に相手役を思う気持ちが伝わってくる。しかし、それが逆にかえって線の細さにも繋がってしまう。カンパニー全体を引っ張る主役としての華とカリスマ性を獲得するにはもう一歩か。


 その点、ジャベール役の内野聖陽の存在感は圧倒的だ。登場した時のその体のフォルムだけで威圧感を与えることが出来る。しかし、最後、セーヌ川に身を投げ出すシーン。一体何故そういう行動に出るのか、その真意が良く伝わって来ない。ずっと感情を押し殺してきたジャベールの、何かが壊れた瞬間があればこその自殺だと思うのだが、その転換の瞬間が私には見えてこなかった。


 圧倒的なのは、アンジョルラス役の坂本健児だ。「ライオンキング」等で培った蓄積がいかんなく発揮されている。声量が他の役者さんと圧倒的に違う。共演するマリウス役の山本耕史などはもろに比較の対象になってしまうのでとてもやりにくいのではないだろうか。
 今後も期待していきたい役者さんである。


 高橋由美子のファンテーヌは清涼感があって清々しい。変な打ちひしがれ感がなく、自分を信じて生きる潔さみたいなものが感じられた。マリウス役の山本耕史は感慨深いものがある。初演のガブローシュ(少年革命家役)なんだよね。今回は見た目の凛々しさと清潔感がうまくアンサンブルの中でアクセントとなっていた。


 いまさら言うまでもない大ヒットミュージカルであるが、絶えず新鮮な出演者たちで繰り返し上演することが、新たな息吹を更に作品に与えている気がする。演出も役者も変に定番化させることがないよう、これからもずっと上演し続けて行って欲しい。