劇評90 

絢爛豪華な一大イベントとして見ると、満足できる作品。

「トゥーランドット」


2008年3月29日(土)晴れ 赤坂ACTシアター 午後6時開演

演出:宮本亜門 音楽:久石譲 衣装:ワダエミ 脚本:鈴木勝秀 作詞:森雪之丞
出演:アーメイ、岸谷五朗、中村獅童、早乙女太一、安倍なつみ、北村有起哉、小林勝也

場 : 赤坂ACTシアターのグランドオープニング作品。新しい劇場はTBS本社ビルの真下、赤坂のド真ん中の好立地。ロビーはさほど広くはないが、観客が着席しているせいか、あまり混雑している感じではない。1300席の大劇場。今後、このキャパを連日埋めていく作品企画を作り上げていくのは、さぞかしPRも含めて大変だろうな、とか思ってしまう。
LIONがスポンサーについていて、入場時に、入浴剤と柔軟剤のサンプル品を配布していた。
人 : 満席。客席中央列の真ん中辺り、いわゆるイイ席には、ずらりとスーツ姿の御仁が居並んでいる。スポンサーの方々? TBSのお偉いさん? また、ロビーの端々にはやはりスーツ姿の男女が立っている。スポンサー企業の若手? 広告代理店の若手? まあ、オープニング作品なので、ロビーも賑々しい。

 何だか日本の持てる才能を集結させたかのような、劇場のオープニングに相応しいと言えば相応しいスタッフィングである。出演者もジャンルや出自を敢えてバラバラに選定したかのようなキャスティングであり、アーメイの出演によりアジア圏からの来場も見込めるといったように、ターゲットを絞るというよりは、幅広い観客の興味を喚起させようという企画意図が見てとれる。




 祝祭音楽劇と謳っているように、演劇ともミュージカルとも異なるフェスティバルのようなその華やかさに圧倒されてしまう。金に糸目をつけずにステージを作ると、こういうものが産まれるのだという大規模な実験のようでもある。故に、各パートの制作時間も多いに掛かっているであろうし、これまで様々な大勢の人々が関わってきたのだと思う。その色々な要件や人材をうまく使いこなし、作品としてひとつに集約していったのであろう、演出の宮本亜門の力技にとても感服した。何だか、作品の内容ではなく、その周辺のことばかりに関心が向いてしまうが、作品のウリのコンセプトが、そこ、にあるのだから致し方あるまい。




 だからといって作品が面白くないというわけではない。物語は、プッチーニの同題名作品オペラを独自に翻案していったものである。そのストーリー展開のエッセンスを掬い取り、主要人物を適宜に配置して、誰もが楽しめるような工夫を凝らしていく。ちょっと台詞を聞き逃すと内容が分からなくなるなんてことは決してない。それぞれの登場人物たちが、その場その場で歌い上げる心情が大きなうねりとなり、少しずつ接点を持ちながら連鎖していく。




 久石譲の音楽は、コロコロと展開する運命に翻弄される人々の熱い思いを、ストレートに確実に観客に届けていく。歌が主役、なのである。ここでは、演劇の濃密な台詞劇などを期待してはいけない。祝祭音楽劇と謳っているように、流転する人生を謳歌し、前向きに生きていく希望の明日を歌に感じ取り、思い切り楽しむことが出来ればいいのだ。さらには、ワダエミの衣装である。1点1点が全てオリジナルであり、しかも一流の職人に手に掛かった芸術品である。目にも鮮やかな衣装は、心までゆったりと贅沢な気分にさせてくれる。




 岸谷五朗はこの一大イベントの中心軸にいて、全くぶれることがなく、物語全般を牽引していく。中村獅童は、その岸谷五朗という大黒柱に対峠するポジションにて、悪者の役回りを悠々と演じた。アーメイは、そのふたりの間で揺れ動く女心が愛おしいが、正直、言葉の壁を感じないではなかった。感情の表出に、多少の、壁、を感じた。早乙女太一は独特の色香を放ち、安倍なつみのとても分かり易い直球の感情表現は、アイドル時代に多くの観客を前に培ったのであろう実力をシカと見せつけた。




 五感を刺激されるこの絢爛豪華な舞台は、万人の心を掴むであろう。しかし、作品のどこかに、えぐられるような心の痛みとか、突き刺さる悲しみといった、観終わった後にまで余韻を引きずるようなヒリヒリとした後味をもう少し感じさせて欲しかった。しかし、ビジュアルの強烈さは、未だに目にも鮮やかに思い起こすことができる。いや、これが、宮本亜門演出が人気である所以なのかもしれない。私は多くのことを望み過ぎているのであろうか?